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老子

老子 BC500頃
roushi

「老子」(1)

<ものが見えるということ>
万物の実相を見極めるためには、常に無欲で
なければならない。
欲望にとらわれていると、現象しかみること
ができない。

「老子」(2)

<上善は水の如し-最も理想的な生き方>
最も理想的な生き方は、水のようなものである。
水は万物に恩恵を与えながら相手に逆らわず、
人のいやがる低い所へと流れていく。
だから「道」のありように似ているのである。

上善は水の如し。
水は善く万物を利して争わず、
衆人の悪む所に居る。
故に道に幾(ちか)し。

「老子」(3)

<「道」を体得した人物とは>
氷の張った河を渡るように、慎重である。
四方の敵に備えるように、用心深い。
客として招かれたように、端然としている。
氷が解けていくように、こだわりがない。
手を加えぬ原木のように、飾り気がない。
濁った水のように、包容力に富む。
大自然の谷のように、広々としている。
汚濁しているようであるがいつのまにか澄み、
静止しているようではあるが豊かな生命力を
宿している。
「道」を体得した人物は、完全であることを
願わない。
だから、ほころびが出てもつくろわないのである。

「老子」(4)

<意識される、という未熟>
最も理想的な指導者は、部下から存在すること
さえ意識されない。
部下から敬愛される指導者は、それよりも一段劣る。
これよりさらに劣るのは、部下から恐れられる指導者。
最低なのは、部下から馬鹿にされる指導者。

「老子」(5)

<少得多惑>
所有するものが少なければ得るものが多く、
所有するものが多ければたちまち迷いが
生ずる。

少なれば則ち得、多なれば則ち惑う。

付記:元の名宰相耶律楚材(やりつそざい)の言葉
「一利を興すは一害を除くにしかず。
 一事を生ずるは一事を省くにしかず」

「老子」(6)

<吉事は左を上(タット)び、喪事は右を上ぶ>
ふつう吉事では左側を上位とし、凶事では右側を
上位とする。
軍隊では、副将軍が左側に立ち、大将軍は右側に
立つ。
つまり、軍隊は凶事の作法にならっているのだ。

「老子」(7)

<明は智に優る>
人を知る者は、智なり。
自ら知る者は、明なり。
人に勝つ者は、力あり。
自ら勝つ者は、強し。
足ることを知る者は、富めり。
強いて行う者は、志あり。

付記:「智を去りて明あり」(韓非子)

「老子」(8)

<女性の本当の強さとは>
縮めようとするならば、まず伸ばしてやる。
弱めようとするならば、まず強くしてやる。
追い出そうとするならば、まず味方に引き入れる。
取ろうとするならば、まず与えてやる。

これを微明という。
柔弱は強に勝つ。

「老子」(9)

<貴きは賤しきを以て本となす>
貴(たっと)いものは、賤しいものがあるからこそ
貴いのである。高いものは、低いものがあるからこ
そ高いのである。
ほめられてばかりいるのは、つまずきのもと。
だから、玉のように美しく、石のように堅い、そん
な生き方は願い下げにしたい。

付記:「君子は下流に居ることを悪(にく)む。
    天下の悪、皆ここに帰す」(論語)

「老子」(10)

<初心を忘れず>
たえず根源に立ち返ること、
これが「道」の運動である。
いつも柔弱であること、
これが「道」の機能である。

反は道の動なり。
弱は道の用なり。

付記:「風姿花伝」(世阿弥)より
 
当流に万能一徳の一句あり
初心忘るべからず
是非の初心忘るべからず
時々の初心忘るべからず
老後の初心忘るべからず
命に終わりあり、能には果てあるべからず
 
「老子」(11)

<大器晩成>
明道は暗きがごとし
進道は退くがごとし
広徳は足らざるがごとし
大器は晩成す

明るい道は暗くみえる
前進している道は後退している
ようにみえる
広大な徳は欠けているように
みえる
大きい器は完成するのが遅い

「老子」(12)

<弱礼賛>

「強梁ナル者ハソノ死ヲ得ズ」

力に頼る者はろくな死に方はできない

「天下ノ至柔ハ、天下ノ至堅ヲ馳騁(ちてい)ス」

この上なく柔らかいものは、
このうえなく堅いものを、意のままに
動かすことができる

「老子」(13)

<子孫に美田を残さず>>

後漢時代、疎広という人物がいた。
皇太子の学問指導を行い、皇太子の学問が
進歩したのを見届けて辞任届けを出した。
「吾聞く、足るを知れば辱められず、止まる
知れば殆からず、功遂げ身退くは天の道なり、と。
今、官に仕えて二千石に至り、宦成り名立つ。
かくの如くして去らざれば、おそらくは後悔
あらん」
郷里に帰り、朝廷から賜った金品を惜しげもなく
散じた。

「子孫に余分な財産など残してやるのは、怠惰を
教えるようなもの。賢にして財多ければその志を
損ない、愚にして財多ければ、その過ちを益(増)す。
それでなくても、富める者は人の怨みを買いやすい。
わしは子孫が過ちをかさねたり怨みを買ったりする
ことを願わないのだ。」

付記:「大西郷全集」七言絶句「偶成」より(西郷隆盛)

我が家の遺法、人知るや否や、児孫のために美田を買はず。
吾家遺法人知否  不爲兒孫買美田

「老子」(14)

<大成は欠けるが如し、大巧は拙なるが如し>
本当に完成しているものは、どこか欠けている
ように見える。だが、その働きは尽きることが
ない。
本当に充実しているものは、どこかうつろに見
える。だがその働きは窮まることがない。
本当に巧妙なものは、稚拙にみえる。
本当に雄弁は訥弁と変わりがない。
本当に豊かなものはどこか不足しているように
見える。

付記:鈴木大拙の「大拙」
   「大巧は拙なるが如し」

「老子」(15)

<経験と知識>
外にでなくても、天下の動静を知ることができる。
窓を開けなくても、天体の理法を知ることができる。
遠くに出かければ出かけるほど、いよいよ知識はあ
やふやになる。

付記:カントは生涯、故郷のケーニヒスベルクから一
   歩も出なかったといわれています。

・カントの墓碑銘
「それを考えることしばしばにして、かつ長ければ
 長いほど、常に新たに増し来る感嘆と畏敬の念を
 もって心をみたすものが二つある。わが上なる星
 きらめく天空とわが内なる道徳法則、これである。」

「老子」(16)

<よくある話>
寿命を全うするものは、山野を旅してもあえて
猛獣を避けようとはしない。
戦場に出てもあえて武具をまとおうともしない。
それでいて、サイも角を突き立てようがなく、
虎も爪の立てようがない。
また、刀槍も傷を負わせようがない。
なぜなら、そういう人には死の入り込む余地が
全くないからである。

付記:水を自らすすんでかぶれば健康になるが、
   いやいやかぶれば風邪をひく
「老子」(17)

<無欲・明知・柔弱>
欲望を抑えれば、生涯疲れない。
欲望のままに行動すれば、生涯救われない。
微細な事象を察知することを明といい、
柔弱な態度を堅持することを強という。

明に立ち返れば、いかなる危険も避けること
ができる。

小ヲ見ルヲ明トイイ、
柔ヲ守ルヲ強トイウ。

「老子」(18)完

<理想的な人物とは>
親しんでいいのか疎(うと)んじていいのか、
利益を与えていいのか損害をかけていいのか、
尊敬していいのか軽蔑していいのか、
とんと見当もつかない。
こういう人物こそ、
もっとも理想的なのである。

付記:
老子は「道」を体得した状態を「玄同」
と呼ぶ。
玄同なる人物は、おのれの才能や知識を
包みかくして世俗と同調する。
誘惑に負けず、圧力に屈せず、確固として
自然体である。
人々からほめられることもないし、
けなされることもない。
そうした人物が老子の理想とする人物である。

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