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五輪書

五輪書< 地・水・火・風・空>
宮本武蔵1584-1645
musashi miyamoto

「五輪書」(1)

<宮本武蔵による五巻解説>

<地の巻>
兵法の道の大躰、我一流の見立、剣術一通に
しては、まことの道を得難し、大いなる所より
ちいさき所を知り、浅きより深きに至る、直なる
道の地形を引ならすによって、初を地の巻と名付也。

<水の巻>
水を本として心を水になる也、水は方円のうつわも
のに随ひ、一てきと也、滄海(そうかい)となる、
水に碧潭の色あり、きよき所をもちひて、一流の
ことを此巻に書き顕す也、
剣術一通の理、さだかに見分け、一人の敵に自由に
勝つ時は、世界の人に皆勝つ所なり、
人に勝つと云う心は千万の敵にも同意なり、
将たるものの兵法、ちいさきを大きになす事、
尺のかたをもって大仏を立つるに同じ、かようの義
こまやかには書きがたし、一をもって万を知る事
兵法の利なり、一流の事此の水の巻に書きしるす也、

<火の巻>
このまきに戦ひの事を書きしるす也、けやけき心なる
によって、合戦の事を書也、合戦の道、一人と一人と
の戦ひも、万と万との戦いも同じなり、心を大きなる
事になし、心をちいさくなして、よく吟味してみるべし
、大きなる所は見えやすし、ちいさき所は見えがたし、
その子細大人数の事は即座にもとをりがたし、
一人の事は心一つにてかわる事はやきによって、日々
に手馴れ、常のごとくおもひ、心のかはらぬ所兵法の
肝要なり、しかるによって、戦勝負の所を火の巻に
書き顕す也、

<風の巻>
此の巻を風の巻としるす事、我一流の事にはあらず、
世の中の兵法、その流々の事を書のする所也、
風と云うにおいては、むかしの風、今の風、その家々
の風などとあれば、世間の兵法、その流々のしわざを、
さだかに書き顕す、これ風なり、他の事をよく知ずし
ては、自のわきまへ成がたし、道々事々をおこなふに、
外道という心あり、日々にその道を勤ると云とも、
心のそむけば、その身はよき道とおもふとも、直なる
所よりみれば、実の道にはあらず、実の道を極めざれば
、すこし心のゆがみに付て、後には大きにゆがむもの
なり、吟味すべし、他の兵法、剣術ばかりと世に思ふ
事もっとも也、我兵法の利わざにおいても、格別の義也、
世間の兵法をしらしめんために、風の巻として、他流の
事を書き顕す也、

<空の巻>
空と云出すよりしては、何をか奥と云、何をか口と
いはん、道理を得ては道理をはなれ、兵法の道におのれ
自由ありて、おのれと奇特を得、時にあいては拍子を
知り、おのづから打、おのづからあたる、是みな空の
道也、おのれと実の道に入事を、空の巻にして書き
とどむるもの也、

「五輪書」(2)

< 地の巻>
我が兵法を学ばんと思う人は、
道をおこなう法あり、

第一によこしまになき事をおもう所、
第二に道の鍛錬する所、
第三に諸芸にさわる所、
第四に諸職に道を知る事、
第五に物毎の損徳をわきまえる事、
第六に諸事目利きを仕覚る事、
第七に目に見えぬをさとってしる事、
第八にわずかな事にも気をつける事、
第九に役にたたぬ事をせざる事、

いづれの道においても、人に負けざる
所を知りて、身をたすけ、名を助ける所、
これ兵法の道なり、

「五輪書」(3)

< 水の巻>
この書に書き付けたるところ、
ことごと、一字一字にて思案すべし、

兵法心持ちの事、兵法の道において、
心の持ちようは、常の心にかわる事なかれ、
常にも、兵法の時にも、少しもかわらずして、
心を広く直にして、きつくひっぱらず、
少しもたるまず、心のかたよらぬように、
心を真ん中におきて、心を静かにゆるがせて、
そのゆるぎの刹那も、ゆるぎやまぬように、
よくよく吟味すべし、
静かなる時も心は静かならず、何とはやき時も
心は少しも早からず、心は体につれず、体は
心につれず、心に用心して、身には用心をせず、
心のたらぬ事なくして、心を少しもあまらせず、
上の心は弱くとも、底の心を強く、心を人に
見分けられざるようにして、少身なるものは、
心に大きなる事を残らず知り、大身なるものは、
心に小さき事をよく知りて、大身も少身も、
心を直にして、我が身の贔屓(ひいき)をせざる
ように心をもつ事肝要なり、
心の内濁らず、広くして、広きところへ知恵を
置くべき也、

「五輪書」(4)

< 水の巻>(2)
「兵法の目付ということ」
観見二つの事、
観の目つよく、見の目よわく、
遠き所を近く見、近きところを遠く見る事。

「構え」
いづれの構えなりとも、構ゆると思わず、
切る事なりと思うべし。

「太刀の早さ」
太刀は振りよきほどに静かに振る心なり。

「鍛錬」
千日の稽古を鍛とし、万日の稽古を錬とす、
「五輪書」(5)

<水の巻>

<たけくらべと云う事>
たけくらべと云は、いづれにても敵へ入込時、
我が身の縮まざるやうにして、足をも伸べ、
腰をも伸べ、首をも伸べて、強く入り、
敵の顔と顔を並べ、身の丈を比ぶるに、比べ勝つ
と思ふほど、たけ高くなって、強く入る所
肝心なり、よくよく工夫あるべし、

「五輪書」(6)

<火の巻>

<剣を踏むという事>

踏むと云うは、足には限るべからず、身にても
踏み、心にても踏み、勿論太刀にても踏みつけて、
二つ目を敵によくさせざるように心得べし、
これ物毎の先の心なり、

「五輪書」(7)

<火の巻>

<四手(よつで)を離すと云う事>

四手を離すとは、敵も我も同じ心に、
張り合う心になっては、戦のはかゆかざる
ものなり、張り合う心になると思はず、
そのまま心を捨てて、別の利にて勝つ事を
知るなり、
「五輪書」(8)完

<火の巻>

<角に触るという事>

角に触ると云うは、物毎強き物を押すに、
そのまま直ぐには押し込み難きものなり、
大分の兵法にしても、敵の人数を見てはり出、
強き所の角にあたりてその利を得べし、

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