森鴎外とショウペンハウエル
なにを読んでも慰謝になるものがない・・そこで、鴎外は哲学書(ハルトマン、スチ
ルネル、ショウペンハウエル)を読みはじ
めるのである。
「生まれてから今日まで、自分は何をして
いるのか。始終何物かに策(むち)うたれ
駆られているように学問ということに齷齪
(あくせく)している。これは自分にある
働きができるように、自分を為上(しあ)
げるのだと思っている。
その目的は幾分か達せられるかも知れない。
しかし自分のしていることは、役者が舞台
へ出てある役を勤めているにすぎないよう
に感ぜられる。
その勤めている役の背後に、別に何物かが
存在していなくてはならないように感ぜら
れる。策(むち)うたれ駆られてばかりい
るために、その何物かが醒覚(せいかく)
する暇がないように感ぜられる。」
(「妄想」)