書く(芥川竜之介)
<書くのがつかえたら>「書くことはずんずん書ける。・・・もしつかえ
れば、手当たり次第、机の上の本をあけて見る。
そうすると、たいてい二頁か三頁読むうちに、書
けるようになってくる。本はなんでも差し支えな
い。子供のときから字引を読む癖があるから、
ディクソンの熟語辞書なんどを読むこともある。」
<書いているときの気持ち>
「書いているときの心もちを言うと、こしらえて
いるという気より、育てているという気がする。
人間でも事件でも、その本来の動き方はたった
一つしかない。その一つしかないものをそれから
それへと見つけながら書いてゆくという気がする。
一つそれを見つけそこなうと、もうそれより先へ
はすすまれない。」
「文を作らんとするものはいかなる都会人で
あるにしても、その魂の奥底には野蛮人を一人
持っていなければならぬ。」