法然(中里介山)
「日本生まれの人で、真実、底の知れない器と腹とを持っている人は法然よりほかにその人も
あるであろうが、私には、全く唯一の人だとい
える。」(昭和6年4月 介山)
「日本において、本当に一宗教を創立したもの
は法然のほかにない。・・・
日本において法然ほどの革命家はない。・・・
彼は一宗の創立者であるのみならず、日本のす
べての仏教を南無阿弥陀仏で統一してしまって
いるともいえる。・・・
彼の特色の一つは終生平民僧であったことであ
る。・・・平民僧であって帝王・宰相の師とな
り、同時に盗賊・遊女の師となり得て、その間
に少しの無理嬌飾もなかったという大きさが他
に類例のないところである。・・・終生、僧位
僧官の何物もなく、墨染めの衣をまとい、金剛
草履を引きずって、流罪の時のほかは輿(こし)
にも車にも乗らず、さっさと、法縁のあるとこ
ろに赴く。・・・「われ知恵第一と称せらるる
といえども、その知恵や何物、仏海の浜の砂の
一つにも足らず。・・・」
・・・彼の特色としては、その生ける時代にお
いて、当時の第一人者として、絶対的に許され
ていたことである。宗教の開祖、あるいは一代
の改革者には概して逆境者が多い。・・・
かくも順境なる開宗者というものは、世界のい
ずれにもなかろうと思う。・・・最大の理由は
最初から彼の器が大き過ぎたからである。」